突然、目の調子がわるくなって、およそ5年が過ぎた。そんな生活に慣れた気もするが、不便な毎日は変わり映えなく続いている。特に、足下が見えにくくなったのには困った、困った。ただ、いちばん困ったのが、「どんなふうに?」と病状を尋ねられたときだった。診察だけでなく、いろいろな検査もした。特に異常もなく、そのたびに症状をいろいろな科のお医者さんに説明した。
「これがこんなふうに見えて……」とか「これはまったく見えなくて……」みたいな言い方ぐらいしかできない。比喩をこねくりまわしても仕方がないので、紙に書いた文字とかそこらへんにあるポスターとかそんなものを指さしながら説明した。短い診療時間ではそれが限界だった。結局、相手にうまく伝わったと思えることは一度たりともなかった。そして、実感した。
自分が見ている世界を、誰が別の人に説明するのはとても難しい、と。